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研究トピック 3
2次元三角格子を持つフラストレート化合物YbAl3C3におけるスピン一重項基底状態
- ・YbAl3C3の結晶構造
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YbAl3C3は右図のような六方晶の結晶構造を持った希土類金属間化合物である。
c軸の格子定数がa軸の格子定数のおよそ5倍という縦長な構造をしており、Ybが作るレイヤーは2次元三角格子と見なすことができる。
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- ・液体窒素温度を超える四極子秩序転移?
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右図(a)は比熱の温度依存性であり、80Kで何らかの相転移に対応する異常が観測されている。この相転移は超音波測定により観測された弾性定数の
ソフトニングや、転移温度が磁場の上昇に従い高温側にシフトすることなどから、反強四極子秩序転移の可能性があると報告した
[1]。
さらに、中性子非弾性散乱実験より80Kを境に4fの電子状態が変化していく様子を観測しており、この相転移に4f電子が絡んでいる証拠の
一つと考えている。
しかしながら、右図(b)に示したように
相転移に伴うエントロピーの解放は期待されるRln2の約半分程度であることや、Yb以外のRAl3C3(Rは希土類元素)
などで類似の転移が見られるとの報告
[2]
もあり、引き続き議論がなされている。
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- ・フラストレーションとスピン2量体化によるスピン一重項基底状態の形成
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YbAl3C3は奇妙なことが低温でも起きる。
磁化測定からはYbの有効ボーア磁子はYb3+で良く説明され、ワイス温度が-94Kと非常に大きい値、
つまり大きな磁気相互作用を持っているにも係わらず極低温20mKまでの測定で磁気秩序は観測されていない。
また、比熱には低温でショットキー異常が現れ、そのエントロピーの解放はちょうどRln2である。
いくつかの実験事実をつなぎ合わせると、低温でエントロピーを解放するためにYbの磁気モーメントが2量体化(ダイマリゼーション)
していると解釈でき、この可能性は論文
[2]
で初めて報告された。
我々は電子状態の温度変化を知るために中性子非弾性散乱実験を詳しく行った
[3]。
右上図は温度約10K以下から急激に発達する低エネルギー領域の磁気励起を高分解能中性子非弾性散乱実験により観測したものである。
磁気励起には構造があり、第一励起状態は3つのブランチから成っていることを明らかにした。
この実験事実は、2量体化により基底状態が一重項そして励起状態が3重項を形成しスピンギャップが生じていることを強く示唆するものと
考えている。これらの実験結果以外にも、フラストレーションを内包したd電子系でのスピン2量体化物質と多くの類似点が認められる。
しかしながら、ギャップの大きさは15K程度と考えられるが、それよりもかなり高温から何らかの磁気励起が存在することも明らかになった。
右下図はその磁気励起強度の温度変化を等高線マップで表したものである。
これが何に起因しているのか今のところ定かでないが、
f電子系でのスピン2量体化現象
はが観測されているのは現状ではYbAl3C3のみであり、
今後の研究の展開が期待できる。
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参考文献
[1]
M. Kosaka, Y. Kato et al., JPSJ 74 (2005) pp. 2413-2416.
[2]
A. Ochiai, T. Inukai et al., JPSJ 76 (2007) pp. 123703 (4 pages).
[3]
Y. Kato, M. Kosaka et al., JPSJ 77 (2008) pp. 053701 (4 pages).
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